穴
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)家《うち》は
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)きゃっ[#「きゃっ」に傍点]
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一
Y君は語る。
明治十年、西南戦争の頃には、わたしの家《うち》は芝の高輪《たかなわ》にあった。わたしの家といったところで、わたしはまだ生まれたばかりの赤ん坊であったから何んにも知ろう筈はない。これは後日になって姉の話を聞いたのであるから、多少のすじみちは間違っているかも知れないが、大体の話はまずこうである――。
今日《こんにち》では高輪のあたりも開け切って、ほとんど昔のおもかげを失ってしまったが、江戸の絵図を見ればすぐにわかる通り、江戸時代から明治の初年にかけて高輪や伊皿子《いさらご》の山の手は、一種の寺町といってもいい位に、数多くの寺々がつづいていて、そのあいだに武家屋敷がある。といったら、そのさびしさは大抵想像されるであろう。殊に維新以後はその武家屋敷の取毀《とりこわ》されたのもあり、あるいは住む人もない空屋敷《あきやしき》となって荒れるがままに捨てて置かれるのもあると
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