の新聞紙上に片門前の女殺しの記事があらわれた。森川権七という古道具屋の亭主がその女房のおいねを殺したというのである。権七は三十一歳で、おいねは年上の三十七であった。新聞の記事によると、おいねは旧幕臣の安達源五郎の妻で、源五郎は越後へ脱走するときに、中間《ちゅうげん》の権七に供をさせて妻のおいねと娘のおむつを上総《かずさ》の親戚の方へ落してやったが、源五郎戦死の噂がきこえて後、おいねと権七の主従関係はいつか夫婦関係に変ってしまった。それには親戚の者どもの反対もあったらしく、おいねは娘のおむつを置き去りにして、若い男と一緒に上総を駈落ちして、それからそれへと流れ渡った末に、去年の春ごろから東京へ出て来て、片門前に小さい古道具屋をはじめたのである。
権七は小才のきく男で、商売の上にも仕損じがなく、どうにか一軒の店を持ち通すようになると、かれは年上の女房がうるさくなって来た。殊においねは旧主人をかさにきて、とかくに亭主を尻に敷く形があるので、権七はいよいよ気がさして来た。目と鼻のあいだには神明《しんめい》の矢場《やば》がある。権七はそこの若い矢取り女になじみが出来て、毎晩そこへ入りびたってい
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