た。ハドソンの落ちたのは古い穴で、彼はそんな穴が幾つも作られていることを知らないで、一昨夜の父とおなじような目にあったのである。
三
何者がなんのためにここへ来て、根《こん》よく幾つもの穴を掘るのか、父はいよいよその判断に苦しめられた。そこで、ハドソンと相談して、今夜はふたりが草むらの中に隠れている事にすると、年の若い英国の騎兵はこの探検に興味を持っているらしく、宵のうちから草むらに忍んでいて、なにかの合図には口笛を吹くといった。しかも十時を過ぎる頃まで彼の口笛はきこえなかった。家内の者を寝かしてから、父も身支度して空地へ出張したが、今夜は風のない夜で、草の葉のそよぐ音さえも聞えなかった。二人は夜露にぬれながら徒《いたず》らに一夜をあかした。
「奴等《やつら》も警戒して迂濶に出て来ないのだろう。」と、父は思った。第一の夜には父に追われ、第二の夜には犬に追われ、かれらも自分たちの危険をおもんぱかって、ここへ近寄ることを見合せたのであろう。常識から考えても、そうありそうなことである。
ハドソンはその後三晩も張番をつづけたが、遂になんの新発見もなかった。父は夜露に打たれた為
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