大変なものでしょう。
今度の病気は去年の十一月、箱根へ大名行列の世話においでなすってからのように思う。押詰って見えた時、海軍病院で診察してもらったが、もう十年ばかりは生きていないと仕事が片附かない、やりたい事が沢山ある、という御話だったので、御大事になさいといって別れたのですが、二月の東劇の舞台装置もなすった位だし、二月の六日の晩、私は行かなかったけれども、新橋演舞場で米斎君に逢ったという人がある。そんな調子なら心配はあるまいと思っていると、急に訃報に接して驚きました。実はその頃は私の方が危かったので、風邪のあとで軽い肺炎になって寝ている間に米斎君は亡くなってしまったのです。私の作で米斎君の御世話になったものは五、六十位ありましょう。考えると何だか夢のようです。
底本:「岡本綺堂随筆集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年10月16日第1刷発行
2008(平成20)年5月23日第4刷発行
底本の親本:「伝記」
1937(昭和12)年6月号
初出:「伝記」
1937(昭和12)年6月号
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年11月2
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