になると、鼠色の壁に黒い著物を著て出るという風になって、甚だ工合が悪いのです。米斎君が亡くなってしまったから、今後はこれまでやった方々のうちから選ぶことにしますか、また新規な方に御願いするようになりますか、その辺はわかりません。しかし図は取ってありますし、写真も残っていますから、大体はそれで見当がつくはずです。
一体日本の芝居の道具は、複雑でもあり面倒でもある。家の道具にしたところで、一軒の家を造るのと同じように、柱を立て床を張りして行かなければならない。そこへ行くと外国のは簡単なもので私が紐育《ニューヨーク》へ行った時分に、メーテルリンクの『ベルジュームの市長』という芝居を見ましたが、これは朝、昼、夕方という三幕になっているけれども、三幕が三幕とも、舞台は同じ市長の部屋で、ただ窓から来る光線によって、朝とか、昼とか、夕方とかいうことを現すだけなのです。ですから道具は一度飾っておけば、あとは幕ごとに多少椅子テーブルの位置を替える位に過ぎない。私の見たのは七十日目だということでしたが、外国では半年位続くのは珍しくないそうです。ただその場合に道具の色が変ったりするから、あまり長くなれば上
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