銀座の朝
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)巻烟草《まきたばこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)紅白|瑠璃《るり》
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 夏の日の朝まだきに、瓜の皮、竹の皮、巻烟草《まきたばこ》の吸殻さては紙屑なんどの狼籍《ろうぜき》たるを踏みて、眠れる銀座の大通にたたずめば、ここが首府《みやこ》の中央かと疑わるるばかりに、一種荒凉の感を覚うれど、夜の衣《ころも》の次第にうすくかつ剥《は》げて、曙《あけぼの》の光の東より開くと共に、万物《ばんぶつ》皆生きて動き出ずるを見ん。
 車道と人道の境界《さかい》に垂れたる幾株の柳は、今や夢より醒めたらんように、吹くともなき風にゆらぎ初《そ》めて、凉しき暁の露をほろほろと、飜《こぼ》せば、その葉かげに瞬目《またたき》するかと見ゆる瓦斯灯《がすとう》の光の一つ消え、二つ消えてあさ霧絶え絶えの間《ひま》より人の顔おぼろに覗《のぞ》かるる頃となれば、派出所の前にいかめしく佇立《たたず》める、巡査の服の白きが先《ま》ず眼に立ちぬ。新ばしの袂《たもと》に夜あかしの車夫が、寝の足らぬ眼を擦《こす》りつ驚くばか
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