は少し仕事を止めてゐろと仰しやるのでござります。
お作 わたしもさう思つてゐますが……。(半二に)さつきから餘ほどお疲れのやうでござります。ちつお休みなされませ。
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(お作とおきよは半二を寢かさうとすれば、半二は力なげに振拂ふ。)
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半二 いや、なか/\寢てゐられない。醫者がなんと云はうとも筆を持ちながら倒れゝばわたしは本望だ。さあ、邪魔をしないで退いてくれ、退いてくれ。どうで長く生きられないのは自分にも判つてゐる。息の通つてゐるうちに、遣りかけてゐる仕事を片附けてしまはなければならないのだ。
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(女ふたりは爭ひかねて、顏を見合せながら手を弛むれば、半二は机に倚《よ》りかゝかりて苦しさうに息をつく。お作はその脊を撫でる。下のかたより竹本染太夫、五十歳前後、鶴澤吉治、四十歳前後、竹本座の手代庄吉、三十餘歳。いづれも大阪より尋ね來たりし體にて、供の若者は、三味線と菓子折を持ちて出づ。)
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若者 御免くだされ。
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