淨瑠璃本その他を乘せてあり。下《しも》のかたには出入りの襖《ふすま》あり。中央のよきところに半二の病床のある心にて、屏風を立てまはしてあり。上のかたは廻り縁にてあとへ下げて障子をしめたる小座敷あり。庭の上のかたは一面の竹藪。縁に近きところに木ぶりの好き櫻ありて、花は疎《まば》らに咲きかゝりゐる。下のかたには出入り口の低き枝折戸《しをりど》あり。枝折戸の外は、上の方より下の方へかけて小さき流れありて、一二枚の板をわたし、芽出し柳の立木あり。薄く水の音。鶯の聲きこゆ。
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(下の方よりは板橋をわたりて、醫者が供の男を連れて出づ。)
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供の男 (枝折戸の外にて呼ぶ)頼まう。
おきよ はい、はい。
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(奧の襖をあけて、女中おきよ出で、すぐに庭に降りて枝折戸をあけ、醫者を見て會釋《ゑしやく》する。)
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醫者 御病人はどうだな。
おきよ けふもやはり机に向つてゐられます。
醫者 けふも机に……。(顏をしかめる)扨《さ》
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