者の子か知らぬが、おまえの命を救うてやりたい。死ぬる子細をつぶさに申せ」
 泰親の名を聴いて、千枝松もおもわず頭をあげて、自分の前に立っているその人の顔を恐るおそる仰いで視た。播磨守泰親は陰陽博士《おんようはかせ》安倍晴明《あべのせいめい》が六代の孫で、天文|亀卜《きぼく》算術の長《おさ》として日本国に隠れのない名家である。その人の口からお前には怪異が憑いていると占われて、千枝松はいよいよ怖ろしくなった。
 彼は泰親の前で何事もいつわらずに語った。泰親は眼をとじてしばらく勘考《かんこう》していたが、やがて又|徐《しず》かに言った。
「その藻とやらいう女子《おなご》の住み家はいずこじゃ。案内せい」
 泰親はなにやら薬をとり出してくれた。それを飲むと千枝松は俄に神気《しんき》がさわやかになった。彼は下部にたすけられて行綱の家の前までたどってゆくと、泰親は立ち停まって家のまわりを見廻した。それから更に眉を皺めて家の上を高く見あげた。
「凶宅《きょうたく》じゃ」
 柿の梢にはいつもの大きい鴉が啼いていた。


花《はな》の宴《うたげ》

    一

 それから年のこよみが四たび変わって、仁平
前へ 次へ
全285ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング