って来てくれたが、侍衆の話では、わたしをお屋形へ御奉公に召さりょうも知れぬと……」
「なんじゃ、御奉公に召さるると……。して、その時はどうするつもりじゃ」と、千枝松はあわただしく訊いた。
「どうするというて……。ありがたくお受けするまでじゃ。もしそうなれば思いも寄らぬ身の出世じゃと、父《とと》さまも喜んでいやしゃれた」
 秋の宵闇は二人を押し包んで、女の白い顔ももう見えなくなった。その暗い中から彼女の顔色を読もうとして、千枝松は梟《ふくろう》のように大きい眼をみはった。
「お受けする……。関白殿の屋形へまいるか。お宮仕えは一生の奉公と聞いておる。それほどで無うても、三年や五年でお暇《いとま》は下されまいに、お前はいつここへ戻って来るつもりじゃ」
「それはわたしにも判らぬ。三年か五年か、八年か十年か、一生か」と、藻は平気で答えた。
 それでは約束が違うと言いたいのを、千枝松はじっと噛み殺して、しばらく黙っていた。勿論、二人のあいだに表向きの約束はない。行く末はどうするということを、藻の口からあらわに言い出したこともない。父の行綱も娘をお前にやろうと言ったことはない。しょせんは言わず語らず
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