、貴人《あてびと》に対して礼儀を欠いているという懸念《けねん》もあった。使者もそれを察していた。清治は殿よりの下され物だといって、美しい染め絹の大《おお》振袖ひとかさねを行綱の前に置いた。
「重々の御恩、お礼の申し上げようもござりませぬ」
行綱はその賜わり物を押し頂いて喜んだ。使者に急《せ》き立てられて、藻はすぐに身仕度をした。門の柿の木の下には清治の供が二人控えていた。いたずら者の大鴉《おおがらす》もきょうは少し様子が違うと思ったのか、紅い柿の実を遠く眺めているばかりで迂闊に近寄って来なかった。
「御前、よろしゅうお取りなしをお願い申す」と、行綱は縁端《えんばた》までいざり出て言った。
「心得申した。いざ参られい」
藻のあとさきを囲んで、清治と下人《げにん》らが門《かど》を出ようとするところへ、千枝松が来た。彼はまだ病みあがりの蒼い顔をして、枯枝を杖にして草履をひきずりながら辿《たど》って来た。彼は藻をひと目見てあっと驚いたが、そばには立派な侍が物々しい顔をして警固しているので、彼はむやみに声をかけることも出来なかった。となりの陶器師の店の前に突っ立って、彼は見違えるように美しく
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