ながらもどうにかこうにか見当はついた。多年人間が踏み込んだことがないので、腐った落葉がうず高く積もって、二人の足は湿《しめ》った土のなかへ気味の悪いようにずぶずぶと吸い込まれるので、二人は立ち木にすがって沼を渡るように歩いた。
「千枝ま[#「ま」に傍点]よ、ありゃなんじゃ」
 翁がそっとささやくと、千枝松も思わず立ちすくんだ。これが恐らくあの古塚というのであろう。ひときわ大きい杉の根本に高さ五、六尺ばかりかと思われる土饅頭《どまんじゅう》のようなものが横たわっていて、その塚のあたりに鬼火のような青い冷たい光りが微かに燃えているのであった。
「なんであろう」と、千枝松もささやいた。言い知れぬ恐れのほかに、一種の好奇心も手伝って、彼はその怪しい光りを頼りに、木の根に沿うて犬のようにそっと這って行った。と思うと、彼はたちまちに声をあげた。
「おお、藻じゃ。ここにいた」
「そこにいたか」と、翁も思わず声をあげて、木の根につまずきながら探り寄った。
 藻は古塚の下に眠るように横たわっていた。鬼火のように青く光っているのは、彼女が枕にしている一つの髑髏《されこうべ》であった。藻はむかしから人間のは
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