年の若い玉藻に敬意を表しているのを見ると、忠通はこの頃におぼえない愉快と満足とを感じた。この夏以来の気鬱《きうつ》も一度に晴れて、彼の胸は今夜の大空のように明るく澄み渡ってきた。
「玉藻、どうじゃ。みなもあれほどに言うているぞ、お身がまずその短尺に初筆《しょふで》をつけいでは……。予が披講する。早う書け」
 玉藻はやはり打ち傾いていたが、やがて低い声で上《かみ》の句を口ずさんだ。
  宿すべき池は落葉に埋もれて――
 これだけ言って彼女は急に呼吸《いき》をのみ込んだ。彼女は逆吊るばかりに眼じりをあげて、衝《つ》と起ち上がって縁さきへするすると出ると、今までは気がつかなかったが、明るい月は俄に陰って、重い大空はこの世を圧《お》しつぶそうとするかのように暗く低く掩いかかって来た。難題を出して得意でいた人も、この難題に屈託していた人たちも、今更のように眼を働かせて陰った大空と暗い広庭とを眺めた。虫も声をひそめたようにその鳴く音を立てなかった。
 玉藻はまじろぎもしないで、だんだんに圧《お》し懸かって来るような暗い空をきっと睨みつめていると、忠通も端《はし》近く出て、ただならぬ夜の気配をおなじ
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