、草の中には陥穽《おとしあな》でもあったらしい。衣笠のすがたは忽ち消えるように沈んでしまった。と思うと、入れ替わって玉藻の形がありありと現われた。
「三浦の娘に心を移そうとしてもそれは成らぬ。おまえと藻《みくず》とは前《さき》の世からの約束がある。いかにわたしを仇《かたき》にしようと思うても、所詮《しょせん》むすび付いた羈絆《きずな》は離れぬ。今別れても再びめぐりあう時節があろう。これを覚えていてくだされ」
彼女は草の奥にある大きい怪しい形の石を指さして消えた。千枝太郎の夢もさめた。夜があけると、彼は急に胸苦しくなって、湯も米も喉へは通らないように思われた。しかしきょうは大事の日であるので、彼は努めて早く起きて、ほかの弟子たちと一緒にきょうの祈祷の仕度に取りかかった。謹慎《つつしみ》の身である泰親が、白昼《まひる》の京の町を押し歩くということは憚りがあるので、彼は頼長から差し廻された牛車に乗って、四方のすだれを垂れて忍びやかに屋敷を出た。ほかの弟子たちは笠を深くしてそのあとについて行った。
頼長の指図をうけて、源氏の侍どもはかの森のまわりを厳重に取り囲んでいた。そのなかには三浦介義
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