にかさこそ[#「かさこそ」に傍点]と鳴っていた。それを仰いでいるうちに、言い知れない悲しさと懐かしさとが胸いっぱいになって、彼の眼はおのずとうるんできた。彼は思わず土にひざまずいて、よそながら師匠に無沙汰の罪を詫びていると、その頭の上で不意に彼の名を呼ぶ者があった。おどろいて振り仰ぐと、それは兄弟子の泰忠《やすただ》であった。
「お身がもとの烏帽子折りになったということは、よそながら聴いていた。どうじゃ、変わることはないか」
 久し振りで兄弟子の優しい声を聴いて、千枝太郎はいよいよ悲しくなった。彼はにじみ出す涙を両袖で拭きながら答えた。
「お身も変わることが無うて何よりじゃ。御勘当の身では何をすべきようもないので、よんどころなしに旧《もと》のなりわい、むかしの朋輩《ほうばい》に顔を見らるるも恥ずかしい。して、お師匠さまはどうしてござる」
「その後も悪魔の調伏に心を砕《くだ》いて、夜も碌々にお眠りなさらぬ」と、泰忠も声をくもらせて言った。「それに付けても口惜しいのは、悪魔のいよいよはびこることじゃ。お身はまだ知らぬか、玉藻はいよいよ采女《うねめ》に召さるるというぞ」
 さきごろ関白忠通か
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