不思議なほど玉藻によく似ているので、彼はなんだか薄気味悪くなって来た。化生《けしょう》の物がこの空き屋敷の奥にかくれ住んでいて、自分をたぶらかすのではないかとも疑われた。
白昼《まひる》の秋の日は荒れた草むらを薄白く照らして、赤い蜻蛉《とんぼう》が二つ三つ飛んでいる。それを横眼にみながら彼は黙って俯向いていると、侍女どもは交るがわるに京の名所などを訊いた。
彼を呼び込んだのは主人の娘の料簡ではなく、侍女どもが自分の退屈しのぎに京の男と話して見たさに、娘をそそのかして呼ばせたものらしい。娘は始終つつましやかに黙って聴いていた。それが千枝太郎には物足らなかった。彼は玉藻によく似たその娘の口から何かの詞《ことば》を聴き出したいと念じていたが、口の軽い侍女どもばかりに物をいわせて、娘の結んだ口はなかなかほぐれなかった。それでも彼が渡辺の綱に腕を斬られたという戻橋《もどりばし》の鬼女の話をした時に、娘の美しい眉は少しひそめられた。
「そのような不思議がまことにあったかのう」
それは若い女にあり勝ちの恐怖の弱い声ではなかった。優しいなかにも一種の勇気を含んでいるような、冴え渡った声であった。
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