をかけて、怨めしそうに彼をみあげた。その眼には白い露がきらきらと光っていた。
三
いかに玉藻に口説かれても、千枝太郎は師匠の使命を果たさなければならない破目《はめ》になっていた。無益の祈祷を幾たびもつづけて、罪に罪をかさねるのは悼ましいことの限りであるが、今更そんな諫言を肯《き》くようなお師匠さまでないことは、彼にもよく判っていた。諫言を肯かないばかりでなく、あるいは心の弱い者として自分に勘当を申し渡されるかもしれない。千枝太郎はそれも怖ろしかった。
第一の問題は、玉藻が果たして魔性の者であるか無いかということで、それを確かに見きわめた上でなければ、あとへもさきへも踏み出すことが出来ないのであるが、今の千枝太郎は不幸にして、それを見定めるだけの大きい強い眼をもっていなかった。彼は師匠を信じながらも、師匠を疑おうとした。玉藻を疑っていながらも、玉藻を信じようとした。こうした悲しい矛盾に責められて、彼はもう自分の立ち場が判らなくなってきた。
相手もその苦しみを察しているらしく、眼をふさぎながら徐《しず》かに言った。
「お前の切《せつ》ない破目もわたしはよく察している。二度
前へ
次へ
全285ページ中198ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング