人も残さずに遠い鬼界ケ島《きかいがしま》へ流せと仰せられたを、わたしが縋ってなだめ申したは、お前という者がいとしいからじゃ。お師匠さまはわたしに取っては仇じゃが、そのお弟子のお前はいとしい。あけても暮れても硫黄《いおう》の煙りを噴くという怖ろしい鬼界ケ島、そのような処へお前をやらりょうか。のう、千枝ま[#「ま」に傍点]。わたしがこれほどの心づくしを、お前は哀れとも思わぬか、嬉しいとも思わぬか。ほんにほんに、むごい人、つれない人、憎い人、わたしは口惜しゅうて涙も出ぬ。察してくだされ」
 彼女は千枝太郎の胸に顔をすり付けて、遣《や》る瀬ないように身もだえして泣いた。男は女を抱《かか》えたままで、明るい月の下に黙って立っていた。
 関白殿から今までなんの沙汰もなかったのは、玉藻が内からさえぎっていたのであることを、千枝太郎は今初めて覚った。名を聞くさえも恐ろしい鬼界ケ島へ遠流――年の若い彼はさすがにぞっとした。それを救われたのは玉藻の情けであることを考えると、千枝太郎も情《すげ》なく彼女を突き放すことも出来なくなった。
 玉藻は果たして魔性の女であろうか――この疑いが又もや彼の胸に芽をふいた
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