。ただ無念なは我が秘法の敢《あ》えなくも破れたことじゃ。七十日の祈りもしっかい空《くう》となって、悪魔が調伏の壇にのぼって勝鬨《かちどき》をあぐるとは、しょせん泰親の法もすたった。上《かみ》に申し訳がない、先祖に申し訳がない。左大臣殿や少納言殿にも申し訳がない。この上はただ慎《つつし》んで罪を待つよりほかはないのじゃが、いかに思い返しても唯このままに手をつかねて、悪魔の暴《あら》ぶるをおめおめ見物するのは、国のため、世のため、人のため、なんぼう忍ばれぬことじゃ。泰親を卑怯と思うな。未練と思うな。泰親の命は疾《と》くに投げ出してある。しかしもう七十日無事でいて、命のあらんかぎり二度の祈祷をしてみたい。就いては千枝太郎、折り入って頼みたいことがある。頼まれてくれぬか」
師匠の眼の底には強い決心の光りがひらめいていた。千枝太郎はその光りに打たれたように頭を下げた。
「いかようのお役目でも、わたくしきっと承りまする」
「まずは過分《かぶん》じゃ。幸いに日も暮れた。いま一※[#「※」は「日へんに向」、読みは「とき」、165−10]ほどしたら屋敷をぬけ出して、少納言殿屋敷までそっと走ってくりゃれ
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