ぜこの壇にうしろを見せらるるぞ。泰親の祈祷がそれほどに怖ろしゅうござるか」
玉藻は檜扇で口を掩いながら軽く笑った。
「わたくしが怖ろしいと申したのは、そのように呪詛調伏《じゅそちょうぶく》を巧らむ、人のこころが怖ろしいと申したのでござりまする。この身になんの陰りもない玉藻が、なんでお身たちの祈祷を恐れましょうぞ」
その恐れげのない証拠を眼《ま》のあたりに見せようとするのであろう。彼女は長い裳をするすると曳いて壇の前まで進み寄って来た。泰親は白い幣をとり直してまた言った。
「まずお身に問うことがござる。さきの夜、関白殿が花の宴《うたげ》のみぎりに、身の内より怪しき光りを放って嵐の闇を照らした者があるとか承る。神明仏陀《しんめいぶつだ》ならば知らず、凡夫《ぼんぷ》の身より光明を放つということ、泰親いまだその例《ためし》を存ぜぬが、玉藻の御はなんと思わるるぞ」
玉藻はその無智をあざけるように、唇に薄い笑みをうかべた。
「播磨守殿ともあるべきお人が、それほどのことを御存じないか。そのむかしの光明《こうみょう》皇后、衣通《そとおり》姫、これらの尊き人びとを、お身は人間にあらずと見らるるか。
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