こちらも表向きは雨乞いの祈祷と言い立て、おなじ河原で祈りくらべをさせることに決めた。一日を二つに分けて、あかつきの卯《う》の刻(午前六時)から午《うま》の刻(十二時)までの半日を泰親の祈祷と定め、午の刻から酉《とり》の刻(午後六時)までの半日を玉藻の祈祷と定め、いずれに奇特があるかを試《ため》さするというのであった。
「又しても彼らが楯を突くか」と、忠通は焦《じ》れて怒った。
 しかし玉藻は別に騒ぎもしなかった。祈り比べをするというのは却《かえ》って幸いである。どちらに奇特があるかを万人の見る前でためしたいと言った。
「して、万一わたくしの勝ちとなりましたら、相手の播磨守どのはどうなりましょう」
「むろん流罪《るざい》じゃ。陰陽《おんよう》の家《いえ》へ生まれてこの祈りを仕損じたら、安倍の家のほろぶるは当然じゃ」と、忠通は罵るように言った。
「お気の毒じゃが、是非がござりませぬ」
 彼女は自分の勝を信ずるように言った。
 忠通も彼女に勝たせたかった。相手の泰親はともかくも、この勝ち負けは結局自分と頼長一派との運定めであるように思われた。彼は苛《いら》いらした心持でその日を待っていた。

前へ 次へ
全285ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング