うに、思わず女の腕にもたれかかると、玉藻はほほえみながら彼を軽くかかえてやった。そうして又、甘えるようにささやいた。
「さりとは情のこわい人じゃ。むかしの藻を忘れてか」
 邪魔なところへ右衛門尉成景が再び出て来た。彼は玉藻に向かっておごそかに言った。
「主人の少納言、あいにくの客来《きゃくらい》でござれば、御対面はかなわぬとの儀にござる。失礼は御免、早々にお帰りあれ」
「それは残り多いこと」と、玉藻は相手の無礼を咎《とが》めもせずにあでやかに笑った。「お客は播磨守殿とやら。大切の御用談でござろうか」
「主人と閑室にての差し向かい、いかようの用談やら我々すこしも存じ申さぬ」と、成景はにべ[#「にべ」に傍点]なく言った。
 それでも玉藻は素直に立ち去らなかった。自分は是非とも入道殿にひと目逢って密々に申し入れたい大切の用事があるから、お客の邪魔にならないように別間でしばらくお逢いを願いたいと押し返して言った。成景はなんとかして主人に逢わせまいと考えているらしく、いろいろに詞《ことば》をかまえて追い払おうとしたが、玉藻はなかなか動きそうもないので、彼もとうとう根《こん》負けがして又もや奥へ引
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