な女の眼をじっと見ているうちに、千枝太郎の胸はなんとなくほてってきた。彼女は果たして魔性《ましょう》の者であろうか。年の若い千枝太郎は師匠の教えを少し疑うようにもなってきた。それでも彼は迂闊に油断しなかった。
「お師匠さまは厳しいで、御用のほかには滅多に外へは出られぬ。それはわしばかりでない。ほかの弟子たちも皆それじゃで是非がない」
「ほんにそうであろうのう」と、玉藻は低い溜息を洩らした。「それでも忍んで出られぬことはあるまいに、たった一度じゃ、逢うて下されぬか。むかしの藻《みくず》じゃ、憎うはあるまい。それともお前、ほかに親しい女子《おなご》でも出来たのか。もう昔の藻を何とも思わぬのか。このあいだも言うた通り、人の身の行く末は知れぬものじゃ。山科の里に一緒に育って、おまえは烏帽子折りの職人になる。わたしも烏帽子を折り習うて……。思えばそれもたがいに幼い同士の夢であった」
千枝太郎の眼の前には、その幼い夢の絵巻物が美しく拡げられた。山科の里の森や川や、それを背景にして仲よく遊んでいた二人の姿も、まぼろしのように浮かび出した。彼はうっとりとして玉藻の顔を今更のように見つめた。そうして、
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