信西入道に心をかよわす者があって、早くもそれを敵に注進されたら、あの精悍な頼長と老獪《ろうかい》な信西とが合体《がったい》して何事を仕向けるかもしれない。あるいは機先を制して、むこうから逆寄《さかよ》せに押しかけて来るかもしれない。下世話《げせわ》のことわざにもある通り、急《せ》いては事を仕損ずる。しょせんは彼らを誅伐するにしても、今しばらく堪忍しておもむろに時機を待つ方が安全であろうと、彼女は賢《さか》しげに忠告した。
 それも一応理屈はあった。殊にそれが玉藻の意見であるので、忠通も渋《しぶ》しぶながら納得したので、彼女はほっとしたような顔をしてそこを起《た》った。
 その日の午過ぎに玉藻は被衣《かつぎ》を深くして屋形を忍んで出た。清治と女の童の死んだ晩から、さみだれ空はぬぐったように晴れつづいて、俄に夏らしい強い日に照らされた京の町には、もう軽い砂が舞い立っていた。柳のかげには牛をつないで休んでいる人が見えた。玉藻は姉小路の信西入道の屋形をたずねた。
 門をはいると、大きい槐《えんじゅ》の梢に蝉が鳴いていた。車溜りのそばには一人の若い男がたたずんで、その蝉の声を聴いているらしく見え
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