童の小さいからだは、蛇に呑まれようとする蛙のように手足をひろげたまま固くなってしまった。その正体のない女の童を地の上にまろばして、玉藻はまずその黒い髪の匂いを嗅いだ。豊かな頬の肉をねぶった。
 このとき、鬼火のような小さい松明《たいまつ》の光りが植え込みのあいだからひらめいて、だんだんにこちらへ近寄って来た。それは織部清治で、彼は宵と夜なかと夜あけとの三度に、屋形の庭じゅうを見廻るのが役目であった。
 彼は暗いなかで、犬が水を飲むような異様なひびきを聞いたので、ぬき足をしてここへ忍んで来た。そうして、その正体を見定めようとして松明をあげると、その火は水を掛けられたように消えてしまった。しかしその一刹那に、そこに這いかがまっている人が玉藻であるらしいことを、彼は早くも認めた。
「玉藻の御《ご》か」と、清治は声をかけると、あたりは急に明るくなった。その光りは花の宴《うたげ》のゆうべに、玉藻の身から輝いたのと同じように見えた。
 それより更に清治の眼をおどろかしたのは、その光りに照らし出されたこの場のむごたらしい光景であった。女の童の小雪は死んだきりぎりすのように、手も足もばらばらになってそ
前へ 次へ
全285ページ中162ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング