に勝《すぐ》れないでのう」と、忠通は烏帽子のひたいを重そうに押さえた。「きょうわざわざ召したはほかでもない。お身と忠通とは年ごろの馴染みじゃ。打ちあけて少しく申し談じたい儀があって……。近う寄られい」
 それは玉藻を采女に推薦《すいせん》する内儀であった。師道にももちろん異存はなかった。
「至極《しごく》の儀、わたくしも然るびょう存じ申す。当時関白殿下の御威勢を以って、彼女《かれ》を采女にすすめ奉るに、誰も故障申し立つべきようもござりますまい」
「いや、そこじゃて」と、忠通は悩ましげに頭《かしら》をかたむけた。「お身の言わるる通り、忠通の威勢を以って彼女《かれ》を申し勧むるに、なんの故障はない筈じゃが、高き木は風に傷めらるるとやらで、この頃の忠通には眼にみえぬ敵が多い。いや、ひがみでない、忠通はたしかにそう見ておる。就いては玉藻の儀も何かとさえぎって邪魔するやからがないとも限らぬ。まず第一には弟の頼長めじゃ。次には信西入道、彼もこのごろは弟めの襟もとに付いて、ややもすれば予に楯を突こうとする、けしからぬ古入道じゃ。まだそのほかにも数え立てたら幾人もあろう。うわべはさりげのう見せかけて、
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