勿論、男の方では女の消息をみな知っていた。関白どのに召されて寵愛を一身にあつめて、玉藻の前と世の人びとに持て囃《はや》されていることは、彼の耳にも眼にも触れていた。しかもこうして顔を突きあわせて、親しく物を言いかけるのは実に四年目であった。怨めしいと懐かしいとが一つにもつれ合って、かれは容易にことばも出なかったのである。
むかしの我が名を呼びかけられても、玉藻は返事もしなかった。千枝松はまたひと足進み寄って言った。
「玉藻の前と今ではお言やるそうな。幼な馴染みの千枝松をよもや忘れはせられまいが……」
「久しゅう逢いませぬ」と、玉藻もよんどころなしに答えた。
「お身の出世は蔭ながら聞いている。果報《かほう》めでたいことじゃ」
めでたいという詞《ことば》の裏には一種の怨みを含んでいるらしいのを、相手は覚らないように軽くほほえんだ。
「ほほ、羨まるるほどの果報でもござらぬ。お前がむかしの意見も思い当たった。上《うえ》つかたの御奉公もなかなか辛い苦しいもの、察してくだされ。して、こなたはやはり叔父御と一つに暮らしていやるのか」
「いや、わしは烏帽子折りの職人をやめて、日本じゅうに隠れのない
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