と玉藻との語らいをぬすみ聴いていたらしく、それを白状せよと迫って土器《かわらけ》をしい付けた。そのとき彼はなにげなく笑っていたが、その笑みの底には刃《やいば》を含んでいたかもしれない。こっちの返事次第で或いは刺し違える料簡であったかもしれない。こう思うと、兼輔は俄にぞっとした。気の弱い彼は、もう実雅に胸倉をとられて、氷のような刃を突き付けられたようにも感じられた。
二人はしばらく黙って、九条の河原を北にむかって辿ってゆくと、うす暗い空をいよいよ暗く見せるような糺《ただす》の森が、眼のさきに遠く横たわっていた。聖護院《しょうごいん》の森ももう夏らしい若葉の黒い影に掩われていた。ほととぎすでも啼《な》きそうなという心で、二人は空へ眼をやると、その眉の上に細かい雨のしずくが音もなしに落ちてきた。
「ほう、降ってきたか」
兼輔は牛車《ぎっしゃ》に乗って来なかったのを悔んだ。恋しい女と連れ立ってゆく物詣《ものもう》でには、かえって供のない方が打ち寛《くつろ》いでよいとも思ったので、きょうはわざと徒歩《かち》で来たのであるが、この俄雨に逢って彼はすこし当惑した。自分はともあれ、玉藻を濡らしたく
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