して、鬢《びん》の毛でも掻きむしりたいように、両手で烏帽子のふちをおさえて頭を二、三度強くふった。その神経のだんだんに昂奮して来るのを、玉藻はいたましそうな眼をしてそっと窺っていたが、いつかその眼から白いしずくがはらはらとこぼれてきた。
「はて、なにを泣く。まだ堪忍がならぬか」と、忠通は彼女の涙に眼をつけて叱るように言った。
「唯今も申す通り、わたくしの堪忍はどのようにも致しまするが……」
「もう言うな。予のことは予に思案がある。その懸念には及ばぬことじゃ」
顔の色はいよいよ蒼ざめて、忠通の眼の奥には決心の光りがひらめいた。
「但しこのことを余人に洩らすなよ」
「はあ」
二人は再び眼をみあわせた。ゆうべに引き替えて、きょうはそより[#「そより」に傍点]とも風の吹かない日であった。散り残った花が時どきに静かに落ちて、どこやらで鶯の声がきこえた。
その日の午《ひる》過ぎに、忠通は桂の里から屋形へ帰った。きのうの接待に疲れたといって、彼は人払いをしてひと間に引き籠っていたが、点燈《ひともし》ごろになって少納言信西を召された。大方はいつもの歌物語であろうと気を許して、信西入道はゆるゆると
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