わ》だらけに巻くれあがっていた。
そのわびしい服装《みなり》に引きかえて、この少年は今夜の月に照らされても恥ずかしくないほどの立派な男らしい顔をもっていた。彼に玉子色の小袖を着せて、うす紅梅の児水干《ちごすいかん》をきせて、漢竹の楊条《ようじょう》を腰にささせたらば、あわれ何若丸とか名乗る山門の児《ちご》として悪僧ばらが渇仰随喜《かつごうずいき》の的《まと》にもなりそうな美しく勇ましい児ぶりであった。しかし今の彼のさびしい腰のまわりには楊条もなかった。小《ちい》さ刀《がたな》も見えなかった。彼は素足に薄いきたない藁草履《わらぞうり》をはいていた。
「ほんによい月じゃ」
彼に口をあわせるように答えたのは、彼と同年か一つぐらいも年下かと思われる少女で、この物語の進行をいそぐ必要上、今くわしくその顔かたちなどを説明している余裕がない。ここでは唯、彼女が道連れの少年よりも更に美しく輝いた気高い顔をもっていて、陸奥《みちのく》の信夫摺《しのぶず》りのような模様を白く染め出した薄萌黄《うすもえぎ》地の小振袖を着て、やはり素足に藁草履をはいていたというだけを、記《しる》すにとどめて置きたい。
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