岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)丑《うし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)両|角《つの》にかけて、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)わっ[#「わっ」に傍点]と言って
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     上

「来年は丑《うし》だそうですが、何か牛に因《ちな》んだようなお話はありませんか。」と、青年は訊く。
「なに、丑年……。君たちなんぞも干支《えと》をいうのか。こうなるとどっちが若いか判らなくなるが、まあいい。干支にちなんだ丑ならば、絵はがき屋の店を捜してあるいた方が早手廻しだと言いたいところだが、折角のおたずねだから何か話しましょう。」
 と、老人は答える。
「そこで、相成るべくは新年にちなんだようなものを願いたいので……。」
「いろいろの注文を出すね。いや、ある、ある。牛と新年と芸妓と……。こういう三題話のような一件があるが、それじゃあどうだな。」
「結構です。聴かせてください。」
「どうで私の話だから昔のことだよ。そのつもりで聴いて貰わなけりゃあならないが……。江戸時代の天保三年、これは丑年じゃあない
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