、まあ仕方がないとして、君のからだはその後どうなのだ。もう出歩いてもいいのか。」と、僕は慰めるように訊いた。
「僕はその翌日寝ただけで、もう心配するようなことはない。美智子さんの葬式にもぜひ参列したいと思ったのだが、みんなに止められて拠《よ》んどころなく見合せたので、きょうは思い切って墓参りに出て来たのだ。幾度いっても同じことだが、僕は生きたのが幸か不幸かわからない。僕は昔からの迷信を裏書きするために、美智子さんを犠牲にしたようなものだ。」
彼の蒼白い頬には涙がながれていた。
「僕も迷信者になりたくない。それは美智子の言った通り、君たちが不幸にして偶然の出来事に出逢ったのだ。」と、僕はふたたび慰めるように言った。
この話はこれぎりだ。盂蘭盆の晩に舟を出すとか出さないとかいうのは、もちろん迷信に相違ないが、海亀の群れがなぜその舟を沈めに来たのか、それは判らない。かれらは時々に水を出て甲をほす習慣があるから、そんなつもりで舟へ這いあがったのかとも思われるが、正覚坊《しょうがくぼう》[#「正覚坊」は底本では「正坊覚」]に舟を沈められたというような話はかつて聞いたことがないと、土地の故老
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