のである。後者は近年、六代目菊五郎によって上演され、梅幸の豊志賀、菊五郎の新吉、いずれも好評を取った。
 三十二年十二月の歌舞伎座で「鏡ヶ池|操《みさおの》松影」を上演した。これも円朝物の江島屋騒動である。主なる役割は江島屋治右衛門(蟹十郎)同治兵衛(家橘)番頭金兵衛(松助)後家おとせ(八百蔵)治兵衛女房お菊(福助)嫁お里(栄三郎)等で、江島屋を呪っている後家おとせの家へ番頭金兵衛が来合わせる件りが、一日じゅうの見せ場となっていたが、他はいたずらに筋を運ぶのみで劇的の場面が少なく、時は歳末といい、俳優も中流であったので、かたがた不評の不入りに終わった。
 その翌年、三十三年八月に円朝は世を去ったのである。その年の十一月、春木座で円朝物の「敵討札所の霊験」を上演した。主なる役割は水司又市(市蔵)白鳥山平(稲丸)おやま(莚女)おつぎ(九女八)等で、これも差したる問題にならなかった。このほかにも、円朝物で脚光を浴びたものには「舞扇恨の刃」「業平文治漂流奇談」「緑林門松竹《みどりのはやしかどのまつたけ》」等々、更に数種にのぼるのであるが、小さい芝居は一々ここに挙げない。
 かくの如くに、円朝物
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