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(幕の外に半七いず。)
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半七 みなさん。和吉は裏の井戸へ身をなげて死にました。わたくしがあいつを縛っていくのは造作もありませんが、あすこから引きまわしの科人《とがにん》が出ることになると、和泉屋の古い暖簾に疵が附いて、自然これからの商売にも障りましょう。また本人の和吉とても引廻しやはりつけ[#「はりつけ」に傍点]の重い処刑になるよりも、いっそ一と思いに自滅した方がましだろうと思ったので、酔った振りをして、わざとああ云って嚇かしてやったのです。もう一つには、わたくしも確かにあいつを恐れ入らせるほどの立派な証拠を握っているわけでも無いのですから、まあ、手探りながら無暗にあんなことを云って見たので……。もし、本人になんにも覚えのないことならば、ほかの人達とおなじように唯聞き流してしまうでしょうし、もしも覚えのあることならば、とてもじっとしてはいられまいと、こう思ったのがうまく図にあたって、あいつもとうとう覚悟をきめたのです。
それから常磐津の師匠の文字清、あの女は御覧の通りの始末で、随分みんなを手古摺らせましたが、
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