ら聴いていると、和吉はふところから財布を出す。)
[#ここで字下げ終わり]
和吉 ここにお給金の溜めたのが、三両二分ある。これはみんなお前にあずけて行くから……。
お冬 いいえ、そんなものを貰っては困ります。
和吉 まあ、そう云わずに受取ってくれ。
お冬 でも、そんなものは……。
和吉 決して係り合いになるようなことはしないから、まあ、受取っておくれと云うのに……。
お冬 そんなことが人に知れると……。
和吉 知れないように黙っていればいいじゃあないか。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(たがいに財布を押し遣り押し戻している時、八つ手のかげより半七が顔を出して咳払いする。和吉はおどろいて見かえれば、半七は再び隠れる。和吉はおちつかぬていにて、無理に財布をお冬に突きつけ、あわてて上のかたへ走り去る。)
[#ここで字下げ終わり]
お冬 (財布を持って縁先に出る。)ああ、もし、和吉さん。和吉さん。これは持って行って下さいよ。和吉さん。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(この時、八つ手のかげより又もや半七が姿をあらわして、再び咳払いをする。これに気がついてお冬は半七
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