吉だ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(お冬は思わず和吉にしがみつこうとして又躊躇し、やがてわっ[#「わっ」に傍点]と泣き伏す。その声におどろいて、和吉はあたりを見まわす。)
[#ここで字下げ終わり]
和吉 おまえが怨むのはもっともだ。どんなに怨まれても仕方がない。それはわたしも覚悟している。だが、お冬どん。後生《ごしょう》だからまあわたしの云うことを聴いておくれ。こうなればみんな正直に打明けるが、わたしがそんな怖ろしい料簡をおこしたのも……。(息をはずませて。)お前が恋しいばっかりだ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(お冬はおどろいたように顔をあげる。)
[#ここで字下げ終わり]
和吉 わたしは今まで一度も口に出したことはなかったが、とうからおまえに惚れていたのだ。どうしてもおまえと夫婦にならずには置かないと自分だけでは思いつめていたのだ。そのうちにお前は若旦那と……。そうして、近いうちに表向きにお嫁になると……。まあ、わたしの心持はどんなだったろう。お冬どん、察しておくれ。それでもわたしはお前を憎いとは思わない、今でもちっとも憎いとは思っていない。(
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