。(声をふるわせる。)おまえは若旦那がどうして死んだのだと思っている。
お冬 舞台で使う勘平の刀がいつの間にか本身に取りかわっていて……。それはおまえさんもよく知っているじゃありませんか。
和吉 それはわたしも知っている。誰よりも彼よりもわたしが一番よく知っているのだ。
お冬 おまえさんは若旦那と一緒に舞台に出て、千崎弥五郎を勤めていたんだから。
和吉 いや、そんなことじゃあない。あの時に勘平の刀をすりかえた者があって、若旦那はとうとうあんなことになったのだ。その若旦那を殺した奴……。それをわたしが知っているのだ。
お冬 え、刀をすりかえて若旦那を殺した奴……。それをお前さんはほんとうに知っているのかえ。
和吉 (苦しそうに。)むむ、知っている。知っている。それをおまえに話そうというのだ。
お冬 (思わず寝床からいざり出る。)あの、おまえさんはほんとうに……。
和吉 むむ、知っている。
お冬 して、そ、それは、だ、だれですかえ。
和吉 え。
お冬 早く教えてくださいよ。(にじり寄る。)
和吉 (縁に手をつく。)お冬どん、堪忍してくれ。
お冬 え。
和吉 主殺しの大悪人はわたしだ。この和
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