てて飛び退く。この時、寝ていた半七は不意に飛び起きて、自分の羽織を取って文字清のあたまから被せて引き伏せる。)
[#ここで字下げ終わり]
半七 (おくめ等に。)あれほど云って置いたのに、なんで又ここへよこしたのだ。
おくめ だって、兄さん。一旦は家へ帰って又飛び出したのよ。
幸次郎 半気違げえだから仕様がねえ。
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(文字清は羽織をかき退けて跳ね起きようとするを、半七は又おさえる。)
[#ここで字下げ終わり]
半七 なるほど、こいつは始末に負えねえ。おい。番頭さん。大和屋の旦那を呼んで来てくんねえ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(文字清は身をもがくを、半七はおさえ付ける。)
[#ここで字下げ終わり]

  (二)

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 和泉屋の奥の小座敷。正面の上のかたには三尺の釣床、かけ花生けには白椿の一と枝がさしてある。それにつづいて奥へ出入りの襖。庭の上のかたには四つ目垣、蕾のふくらんだ桃の木がある。下のかたには稲荷の小さい社《やしろ》、そのそばには八つ手の葉が茂っている。
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