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(座敷には屏風をうしろに立てまわして、仲ばたらきのお冬がやつれた顔をして寝床の上に起き直り、薬をのんでいる。その枕もとに和泉屋の女房おさきが同じく暗い顔をして坐っている。)
[#ここで字下げ終わり]
おさき どうだえ。まだ気分はよくないかえ。
お冬 ゆうべからどうも頭《つむり》が痛んでなりません。
おさき それも無理の無いことさ。こころの疲れと、からだの疲れで、わたしでさえもがっかりして、骨も魂も抜けてしまったようだから、まして、お前は……。(云いかけて涙ぐむ。)察していますよ。
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(お冬は声を立てて泣き入る。)
[#ここで字下げ終わり]
おさき ああ、そんなに泣いてはからだに悪い。もう、もう、何事も因縁ずくと、わたし達も諦められないところを無理にあきらめるから、お前もどうぞ諦めておくれよ。
お冬 わたくしはいっそ死んでしまいとうございます。(すすりあげて泣く。)
おさき それでは却って仏のためにもならない。たとい角太郎がこの世にいなくっても、一旦はここの家の嫁にと思ったお前のことだから、わたしの方でも決して
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