等に。)さあ、早く呼んで来て……。
伝兵衛 でも、むやみに逢わせることは出来ませんよ。こっちにも色々の取込みがあるので……。
文字清 どうしても逢わせないのかえ。そんなら勝手に通るから邪魔をおしでないよ。わたしはね、角太郎のかたき討に来たんだから。
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(文字清は帯のあいだから紙にくるんだ剃刀《かみそり》を取り出し、逆手《さかて》に持って店へかけ上がろうとするので、伝兵衛も弥助もいよいよ驚いてうろうろする。おくめも幸次郎もおどろいて支える。)
[#ここで字下げ終わり]
おくめ まあ、お前さん。飛んでもない。そんなものを持ってどうする積りですよ。
幸次郎 どうも驚いたな。刃物三昧《はものざんまい》はあぶねえから、止しねえ、止しねえ。
文字清 ええ、放して下さいよ。
幸次郎 いけねえ、いけねえ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(文字清は哮《たけ》り狂って店へあがろうとするを、おくめと幸次郎は一生懸命にひき戻そうとして争ったが、文字清はむやみに剃刀をふりまわすので、二人も持て余して手を放せば、文字清は店へかけあがる。伝兵衛と弥助はあわ
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