戸中にも知れ渡っている御大家だが、失礼ながら随分不取締だとみえますね。ねえ、そうでしょう。主殺しをするような太てえ奴等に、三度の飯を食わして、一年いくらの給金をやって、こうして大切に飼って置くんだからね。
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(人々はびっくりして、再び顔をみあわせる。)
[#ここで字下げ終わり]
十右衛 (あわてて。)まあ、お静かにねがいます。ここは店先、表は往来でございますから。
半七 そんなことは知れていらあ。(せせら笑う。)だれに聞えたって構うものか。どうせ引きまわしの出る家《うち》だ。
十右衛 もし、親分。
半七 いいってことよ、うるせえな。(一同を睨みまわして。)やい、こいつ等。よく聞け。(羽織をぬぐ。)てめえたちは揃いも揃って不埒な奴等だ。おれがさっきから犬っころと云ったのも無理はあるめえ。大それた主殺しを朋輩に持ちながら、知らん顔をして一つ店に奉公して一つ釜の飯を食っているという法があると思うか。ええ、白ばっくれるな。この中に主殺しのはりつけ[#「はりつけ」に傍点]野郎が一匹まぐれ込んでいるということは、おれがちゃんと睨んでいるのだ。多寡が守っ子
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