か。おれの註文を聴いてから玉川まで水を汲みに行ったわけじゃああるめえ。
和吉 台所の薬鑵があいにく冷めて居りましたので、沸かさせて居りました。
半七 (湯呑を取る。)おい、これを飲んでもいいかえ。
和吉 え。
半七 毒でもはいっていやあしねえか。
和吉 飛んだことを……。
半七 はははははは。(湯を呑む。)
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(上のかたより庄八、長次郎を先に立てて、和泉屋の若い者六人いず。奥よりも若い者四人いず。)
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十右衛 どうだ。みんな揃ったかな。
伝兵衛 (見わたして。)はい。これでみんな揃いました。
半七 こっちに八匹、そっちに四匹……。(見まわして。)むむ、これで犬っころが皆んな鼻を揃えたわけですね。
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(若い者等はおどろいて顔をみあわせる。)
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半七 なんだ、なんだ、どいつもこいつも脂《やに》を嘗めさせられた蝦蟇《ひきがえる》のような面《つら》をするな。ねえ、もし、大和屋の旦那。具足町で名高けえものは清正公《せいしょうこう》さまと和泉屋だと云うくれえに、江
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