少し用があるから若い者をみんな呼んで来てくれ。
庄八 はい、はい。(引っ返して去る。)
半七 あいつは何といいますね。
伝兵衛 庄八と申します。
半七 ここの家はお冬どんという小綺麗な仲働きがいる筈だ。それはどうしました。
伝兵衛 お冬は昨晩から気分が悪いと申しまして、奥の四畳半に臥せって居ります。
半七 その四畳半は女中部屋かえ。
伝兵衛 女中部屋はなにぶん狭うございますので、おかみさんの指図で奥の小座敷に寝かしてございます。
半七 むむ、そうか。(うなずく。)時にさっき頼んだはずの湯も水もいまだに持って来てくれねえのか。あの番頭め、駈落ちでもしやあしねえか。
十右衛 御冗談を……。しかし遅いな。(弥助に。)これ、和吉はどうしているのか、見て来なさい。
弥助 はい、はい。
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(弥助は起って奥へはいろうとする時、出逢いがしらに和吉は盆の上に湯呑を乗せていず。)
[#ここで字下げ終わり]
弥助 ええ、あぶなく突き当るところだ。親分さんがお待ち兼ねだよ。
和吉 どうも遅くなりました。(半七の前に盆を持ってゆく。)
半七 ひどく待たせたじゃあねえ
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