[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(十右衛門は店に腰をおろし、ふところから手拭を出して額の汗をふく。)
[#ここで字下げ終わり]
伝兵衛 どなたもよい御機嫌でございますな。まあ、ともかくもおあがり下さい。親分もどうぞ。
半七 おまえさんは今、大きな面をして帳場に坐っていなすったね。番頭さんかえ。
伝兵衛 はい。
十右衛 一番々頭の伝兵衛という者でございます。
半七 なるほど金物屋の番頭だけに、薬鑵《やかん》あたまに出来ていやあがる。どんな音がするか、おれに叩かしてみろ。
伝兵衛 え。
半七 はは、びっくりするな。冗談だ、冗談だ。(弥助に。)おまえさんも番頭かえ。
弥助 はい。弥助と申します。
半七 そっちがおしゅん伝兵衛で、こっちが鮓屋の弥助か。みんな揃って芝居がかりに出来ていやあがるな。それだからこの間のような騒動が起るのだ。今立って行ったのは何というのだね。
弥助 あれも番頭で和吉と申す者でございます。
半七 むむ、和吉というのか。番頭にしちゃあ若けえね。
伝兵衛 当年二十五になりまして、昨年の春から番頭格になって居ります。
半七 そのほかに牡《おす》の犬っころは何匹飼
前へ
次へ
全64ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング