勢よく和泉屋へ乗込もうじゃありませんか。
十右衛 (いよいよ困った顔をして。)はい。
半七 (台所に向いて。)おい、おい。なにをしているんだ。早くしねえか。
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(亀吉は徳利を持ち、おみのは膳を運びていず。)
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亀吉 馬鹿に急ぐんだね。
半七 ゆっくりしちゃあいられねえ。立場《たてば》だ、立場だ。
亀吉 まだ燗は本当に出来ねえぜ。
半七 冷《ひや》でもいいから早く持って来い。
亀吉 あい、あい。
半七 どれ、今のうちに衣裳を着かえて置こうか。(起つ。)旦那、かまわずに一杯やっていて下さい。亀、お相手をしろ。
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(云いすてて半七は奥に入る。十右衛門はなんだか落着かないような顔をして、あとを眺めている。)
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[#地付き]――幕――
第三幕
(一)
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京橋具足町の金物屋《かなものや》、和泉屋の店さき。間口の広い大店《おおだな》にて、店さきの土間にも店の左右の地面にも、金物類が沢山に積んである。上のかたには土蔵の白壁がみえて、
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