十右衛 飲むというほどでもございません、まあ一合上戸ぐらいのことでございます。
半七 お飲みなされば丁度いい。生憎《あいにく》かかあがいねえので、碌なお肴もありませんが、まあ一杯飲んでから出かけることに致しましょう。(台所に向いて。)おい、亀。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(台所より亀吉いず。)
[#ここで字下げ終わり]
半七 肴はなんでもいいから早く酒の支度をさせてくれ。
亀吉 あい、あい。(引っ返して去る。)
十右衛 どうぞお構いくださいますな。わたくしはもうお暇《いとま》をいたします。(起ちかかる。)どうもお邪魔をいたしました。
半七 ああもし、おまえさんはこれから和泉屋へ行きなさるんでしょうね。
十右衛 え。
半七 先廻りをしていかれちゃ困る。ここでわたしと一杯飲んで、どうぞ一緒に行ってください。
十右衛 (迷惑そうに。)はい。
半七 わたしもたんといける口じゃあねえ。やっぱり一合上戸のお仲間ですが、きょうは少し飲みましょうよ。顔でも紅《あか》くしていねえと景気が附きませんや。(笑う。)
十右衛 はい。
半七 旦那もまあお飲みなさい。よたん坊が二人連れで威
前へ 次へ
全64ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング