うなれば何もかも申上げますが、実は和泉屋の仲ばたらきのお冬という女に手をつけまして……。尤もその女は気立ても悪くないものですから、いっそ世間に知れないうちに相当の仮親をこしらえて、嫁の披露をしてしまった方がいいかも知れないなどと、親たちも内々相談して居りましたのですが、思いも付かないこんな事になってしまいまして、つまり両方の運が悪いのでございます。
半七 そのお冬というのは、年は幾つで、どこの者ですね。
十右衛 あけて十八になりまして、品川の者でございます。
半七 若旦那と色になるようじゃあ、定めて容貌《きりょう》もいいんでしょうね。
十右衛 容貌はまず十人並以上で、和泉屋の嫁に致しても恥かしくはないかと、わたくし共も存じて居りました。
半七 (うなずく。)いや、わかりました。(ひとり言のように。)やっぱりあの女か。
十右衛 お冬を御存じでございますか。
半七 あの騒ぎのときに楽屋でちらりと見かけたのが多分そのお冬という女でしょう。若旦那のそばへ行って無暗に泣いているのがちっとおかしいと思いました。いや、まだほかにもおかしい奴がありましたが、成程そんなわけがあったのですか。(かんがえて
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