きたいと存じまして、こうしてお願いに出たのでございます。
半七 舞台で使う銀紙の刀がどうして本身に変ったのか、わたくしもその晩すぐに楽屋へ踏み込んで調べてみたが、さっぱり見当が付かないので困ってしまいました。損料屋も色々に詮議しましたが、まったく何んにも知らないらしいし、町人衆ばかりが寄り集まっているところに、ほん物の大小が置いてあろう筈もなし、どうして取り違ったのか……。(云いかけて考える。)それに就いてわたくしもちっと考えていることもあるんですが……。
十右衛 (乗り出す。)お心当りがございますか。
半七 さあ。そこで大和屋の旦那。妙なことを伺うようですが、若旦那は芝居のほかに何か道楽がありましたかえ。
十右衛 素人芝居の役者になるほどでございますから、お芝居は勿論大好きでございましたが、そのほかに碁将棋のたぐいの勝負事は嫌い、酒も嫌い、若い者としてはまず道楽の少ない方で、女道楽の噂などもついぞ聞いたことはございませんでした。
半七 お嫁さんの噂もまだ無かったんですね。
十右衛 (やや迷惑そうに。)それは内々決まって居りましたので……。
半七 きまっていましたか。
十右衛 はい。こ
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