うんですね。
十右衛 (云い淀んで。)それがどうも困りますので……。そんな悪い噂がそれからそれへと拡まりますと、妹がまったく可哀そうでございます。
半七 (やはり素知らぬ顔で。)それじゃあ今度のことに、和泉屋のおかみさんが何か係り合いがあるとでも云うんですかえ。
十右衛 まあ、まあ、そんなわけでございます。兄の口から斯う申すも如何《いかが》でございますが、あれは正直おとなしい女で、角太郎を生みの子供のように大切にして居りましたのに、それを何か世間にありふれた継母《ままはは》根性のようにでも思われますのは如何にも残念でございまして……。ともかくも葬式は昨日《さくじつ》で済みましたから、これから何とかして当夜の間違いの起った筋道を詮議いたしたいと存じて居るのでございます。その筋道がよく判りませんで、妹が何かの濡衣《ぬれぎぬ》でも着るようでございますと、妹は気の小さい女でございますから、あんまり心配して気ちがいにでもなり兼ねません。それが不便《ふびん》でございまして……。(鼻紙を出して眼をふく。)どうか親分さんのお力で、一体どうして角太郎の大小が本身の品と取り変ったのか、それをよく詮議して頂
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