いうのだ。
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(与兵衛は角太郎のそばに寄りて覗く。)
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与兵衛 これ、角太郎。急病でも起ったのか、これ、角太郎……。どうしたのだ。
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(角太郎は答えず、ただ唸っている。下のかたより和泉屋の女房おさき、あわてていず。)
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おさき 今夜の六段目は大変に出来がよかったと云って、みんなも感心して見ていたら、中途から角太郎が急に倒れたのでびっくりしました。(与兵衛に。)どこが悪いのですえ。
与兵衛 ただ苦しそうに唸っているばかりで判らないのだ。(庄八に。)おい、こりゃあどうしたのだね。
庄八 へえ。(他の人々と顔をみあわせる。)
おさき (のぞく。)おお、大変に血が流れているようだが……。
与兵衛 これは勘平が切腹の糊紅《のりべに》だよ。
三津平 それが旦那、糊紅でないのですよ。
与兵衛 え。
五助 若旦那はほんとうに腹を切ったのでございます。
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(与兵衛もおさきもおどろく。)
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与兵衛 なに、
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